皆様こんにちは。リラ吉です。
近年、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を聞くことが増えました。
DXとは「文書や手続きを単に電子化するだけではなく、ITを徹底的に活用することで、手続きを簡単・便利にし、蓄積されたデータを政策立案に役立て、国民と行政、双方の生産性を抜本的に向上することを目指します」と経済産業省は定義しており、その考えから、リモートワークやデリバリーフード、銀行振り込みなど、様々なものがオンライン上で出来るようになっています。
しかし、日本はデジタル化が遅く、オフラインのものが多いというのが現状です。
ではDXの実現にはどのようなことが必要なのでしょうか?そしてDXが実現された社会とはどのような社会なのでしょうか?
本記事ではそれらのことについて書いてある藤井 保文さんの本「アフターデジタル2 UXと自由」について書きたいと思います。
目次
内容の要約
オフラインのない状態がくる
中国の都市部では現金の使用率が5%以下まで低下し、モバイルペイメントの利用が浸透しています。デリバリーフードもアプリで済ませ、都市部の移動もシェアリング自転車を使う人が増えています。
このようにもともとオフラインだったものが次々とオンラインデータ化し、個人のIDと紐付けられ、膨大な行動データが利活用可能になっています。日本もだんだんとそうなってきています。そして行動データを利活用できないプレイヤーは負けていく時代なのです。
アフターデジタル社会において成功企業が共通で持っている思考法を「OMO」と言います。OMOは「オンラインとオフラインを分けるのではなく、一体のジャーニーとして捉えて、これをオンラインの競争原理から考える」というものです。
ジャーニーとは人の行動、思考、感情などの見える化したものを指します。これにより、オンライン、オフラインという区別を意識しなくても、そのとき最適な方法を選ぶことができます。
これまでは製品を販売するというゴールに向かって企画、生産し、売っていくというビジネスモデルでした。これからは製品はあくまで顧客との接点の一つと考え、他の接点である、アプリ、店舗などと等しく扱われます。
すべての接点が1つのコンセプトでまとめ上げられ、その世界観を体現したジャーニーに顧客が載り続け、企業は顧客に寄り添い続ける、そうした新しい型(バリュージャーニー)に変化します。このバリュージャーニーの時代では顧客を状況レベルで理解するほど強くなります。
ソフトバンクの孫正義はペイメント機能に始まり、移動、飲食、金融など生活インフラ機能を全方面でとらえたアプリを「スーパーアプリ」と表現しました。スーパーアプリで重要なことは「いかにして、日常の様々なことに使ってもらうか」になります。スーパーアプリはアジアでは中国が先行しています。
一方でGAFAという世界最強のプラットフォーマーがある米国では、プラットフォーマーに頼りすぎず、テクノロジーをまとったブランドが中間業者を挟まず顧客にダイレクトにつながるD2Cという動きが生まれてきています。D2Cブランドは、従来の顧客に製品を販売していくモデルではなく、テクノロジーを駆使してリレーションを作っていくモデルです。
日本はデジタル化が遅れている国です。その理由の一つが「日本はホワイトリスト方式」だからです。ホワイトリスト方式というのは「やっていいことを決め、それ以外はやってはいけない」という管理の仕方です。決めたことしかやってはいけない為、自由度が低くなります。
対して米国などはブラックリスト方式、つまり「やってはいけないことを決め、それ以外は一旦はやっていい」という管理方法です。これは自由度が高く、デジタル化を進める上では良いです。しかし、企業や個人に責任を負わせることになるため、社会問題が発生した場合、大企業でも容易につぶれるリスクもあります。
アフターデジタル型産業構造の生き抜き方
決算プラットフォーマーはアフターデジタル型産業構造において、強い立場にいます。
中国のアリババとテンセントは細やかなUX(新たな顧客体験)にまで一気通貫しています。アリババのアリペイとテンセントのWeChatペイにそれが反映されていて、ほとんどの人が両方使っています。
この二つは同じカテゴリーのサービスですが、異なるミッションでそのカテゴリを捉えています。例えば送金を例にするとアリペイは送られてきたお金がそのままウォレットに入りますが、WeChatペイは受け取るというアクションを取らないとウォレットには入りません。
このように聞くとアリペイの方が便利に聞こえます。しかし、著者の経験として、プロジェクトの打ち上げの際に奢ろうとしたら部下の1人が「私もお金を出します」とWeChatペイで100元送ってきました。
この時、著者は奢る気だったので当然受け取りませんでした。しかし、部下も受け取らずに返金されることがわかっていて100元を送ってきました。このような日本でよく行われる「奢ってもらえるのはわかっているけど、一応財布を出すポーズだけはする」のようなお金のやり取りというコミュニケーションをデジタル上で出来るのです。テンセントの狙いは全てをコミュニケーション化することなのです。
アリペイは商取引の円滑化が優先です。受け取りアクションを取り入れると取引を通じて沢山の人から送金があると無駄なことが増えてしまいます。このようにアリババとテンセントは同じ機能でも同じサービスにならないのです。
このように機能やUXだけでなく、展開戦略やミッションが反映され、企業の「社人格」のようなものが現れます。結果、ユーザーには「この企業はこういう存在である」と認識されるのです。
アフターデジタル型産業構造になることで、最も恐怖を感じているのはメーカーです。メーカーは顧客接点の頻度が低く、顧客理解の解像度が低くなってしまいます。
しかし、例えば電気自動車メーカーのNIOは「鍵を渡してからが仕事」と言っています。NIOは購入者限定の会員サービスがあります。どちらかと言えば会員サービスを買うために600〜700万円支払い、ギフトとして車を差し上げているくらい車を差し上げるようなものです。
通常、メーカーは購入時のみしか接点を持てませんが、NIOは定常サービスによって顧客との接点を確保し、いつまでも顧客の相談に乗れるような関係性を作っています。
価値の再定義も必要です。中国においてスターバックスは30分に届いたコーヒーは味が落ちていると考え、デリバリーに参入していませんでした。その結果、ラッキンコーヒーがデリバリーを開始し、店舗拡大をしてしまいました。
対策としてスターバックスは専属配達員を配備しました。通常、デリバリーアプリで注文すると30分前後かかりますが、専属配達員は1 to 1配送を実施するため、注文後10分前後で配達してくれます。
スターバックスはユーザーがすでにその便利さに移行しているという捉え、スターバックスらしいデリバリーは何か、アフターデジタル型のスターバックスが提供する価値とは何かを再定義しました。
時代に合わせて価値を再定義して技術を正しく導入すれば、アフターデジタルの時代においても大きく成長することができます。
誤解だらけのアフターデジタル
中国で起きたことが日本で同じことが起きるかというと、そうとは思えません。国家の運営体制、経済構造、文化背景の3点が日本と中国では異なるからです。
中国では決済プラットフォーマーが頂点にいて、その下にサービサー、さらに下にメーカーが位置します。
しかし、日本では同様のヒエラルキーにはならないでしょう。中国の人口は14億人、そのうち5億人が使うアリババやテンセントの決済プラットフォームと5000万人が使う日本のプラットフォームでは、参加企業のインセンティブが大きく異なります。
より多くの企業が、よりユーザーの多いプラットフォームに乗ってくるので、ユーザーの選択肢も増え、さらに多くのユーザーが使うようになります。そうすると、企業にとってのメリットも増え、さらに多くの企業が参加します。
決済プラットフォーマーとしてアフターデジタル方産業構造のトップに立つには「圧倒的な資金力」「考え抜かれたUXによる圧倒的なユーザー数」の二つの条件が必要なのです。
日本におけるDXは「デジタルを導入せよ」という命令が出てしまい、「顧客提供価値をアフターデジタル社会に照らし合わせて定義する」という議論が抜けがちです。ユーザーにどのようなUXを提供するのかを考える前に業務や人事のデジタル化を先に行ってしまいます。
また、ユーザーの状況理解とそこに提供するらUXの企画がないまま、DXを進めようとしてしまっています。UXはUIと一緒に使われがちですが、GAFAやアリババ、テンセントではUXは「ユーザー、ビジネス、テクノロジーの3つが関わり合う時に生まれる体験」と捉えています。
優れたUXが高頻度で長く使ってもらえるものを生み、それがビジネスの全てを決めると理解しているからです。
UXインテリジェンス
目指すべきは「多様な事由が調和する、UXとテクノロジーによるアップデート社会」、つまり「人々がその時々で自分に合ったUXを選べる社会」です。これは民間企業が社会のアーキテクチャー設計を担うことを意味します。言い換えると企業のDXが社会のDXを形作るのです。
しかし社会のDXを念頭に置かないと企業のDXも上手くいきません。そして、社会に受け入れられるDXを成し遂げるには、どんな世の中にしたいかという企業家精神が不可欠なのです。
しかし、こうした精神を持たない企業がデジタル化を進めてしまい、データが悪用され、そうした事例がいくつも世の中に出てしまうと、社会発展が止まってしまう可能性が高くなります。
データはUXに還元し、ユーザーとの信頼関係を作ることを最優先にし、心の底から共感できる世界観を提供しなければならないのです。その実現に重要なケイパビリティ(組織的な能力)は「ユーザーの置かれた状況」を考える「UX企画力」なのです。
日本の企業への処方箋
日本企業がDXを推進する場合、組織内部の課題が非常に多いです。経営レベルでアフターデジタルの世界観を理解し、社長から現場まで同じイメージ(DXの必要性、目的)で共有するライン作る必要があります。
また、命令型組織ではなく、上も下も横も対話と議論ができる対話型組織でないとDXは実現できないとも言われています。
DXの目的は「新しいUXの提供」であり、その成功に対しては「組織としてのバリュージャーニーの企画運用ができるようになる」ことが重要です。仮に失敗しても、そこから得た経験からチャンスを見出すこともできます。
そして早く実現に動きながら、本気でケイパビリティの獲得と組織化への集中こそがDX実現の近道なのです。
感想・意見
この本は今の日本に必要なこと、多くの方が気が付いていないであろうDXの本質について書かれてあっておもしろく、学べることも多かったです。そのため、社会人、学生問わずおすすめできる本だと思います。
また、中国の事例を多く紹介していますが、そのレベルの高さに驚かされたと同時に、日本のデジタル化の遅さに焦りを感じさせられます。
私が勤める会社でも多くの企業がそうしているようにDX専門の部署がありますが、そこに所属はしていなくても、DX成功、というより生き残る為に、どのように差別化された優れたUXをユーザーに提供するのか、組織としての能力をどのように上げるべきか真剣に考え、提案しなくてはならないと感じました。
個人的には単純ではありますが、会社内での教育、そして対話型組織を作ることが大切かと思います。
対話型組織は間違いなく必要ですが、上下関係なく議論が環境があっても、同じイメージを持たなくては意味がありません。同じイメージが持てないようだと方向性がバラバラになりますし、場合によっては話が進まないからです。
そして同じイメージを持つには、社内での教育が重要かと思います。この教育というのは能力アップはもちろんですが、自社、競合他社、社会の状況を教える、知るということも含まれます。これらの状況を知ることで、目指すべき場所の想像がしやすくなるからです。
ただ正直なところ、差別化されており、優れたUXを提供するシステムのイメージを共有し、理解することは出来ても、そのシステムを社内で、場合によっては世界で最初に考える、イメージするというのはあまりにも難しいです。
これには「ロケット科学者の思考法」についての記事でも書いたように、「一見無用に思える好奇心からくる研究や思考実験がひらめきを明らかにする」のだと思います。
またOODAループにおける「みる(意識して観る、観察する)」「わかる」も重要かと思います。自社、競合他社、社会を観察し、自分の世界観を元にして、課題ややるべきことを理解することによってアイディアが浮かぶのではないかと思います。
まとめ
以上が「アフターデジタル2 UXと自由」の要約、感想になります。
今の日本にとって必要なことが書かれており、この本に書かれていることを知っているだけで、失敗する可能性(=時代に取り残される可能性)は格段に減るかと思います。
また、実例も多く書かれているので理解しやすい内容です。
社会人の方にも学生の方にもおすすめできる本ですので、ご興味のある方はぜひお手に取っていただけたらと思います。
今回は以上です。それではまた。
リラ吉