皆様こんにちは。リラ吉です。
皆様はOODA(ウーダ)ループというものをご存じでしょうか。
OODAループは現在、意思決定を早めるのではなく、現場レベルで臨機応変に行動できるため、非常に注目されている方法です。
また、よく比較されるPDCAよりもスピード感がある為、「PDCAは時代遅れ」なんて言う方もいるほどです。
個人的にはPDCAが時代遅れとは正直思いません(理由は「PDCAとの使い分け方」を参照)。しかしOODAのほうがスピードがあるのは確かであり、もし下記のように悩んでいるのであればOODAループは一つの解決策になるかと思います。
- PDCAを実践しているがスピード感がない
- 世界的に有名な企業が実践している考え方を試したいけど、その方法がわからない
今回の記事では、これらの悩みを解決する方法、OODAループについて書かれた入江 仁之さんの本、「OODAループ思考[入門]」をご紹介します。
目次
内容の要約
OODAとは
OODA(Observe Orient Decide Act)ループはアメリカの空軍のジョン・ボイド大佐が提唱した理論です。当初は、戦闘機パイロットとしての経験に基づいた、戦闘に勝つための理論でした。
その後、ビジネス、政治、スポーツなどでも活用され、「どんな状況下でも的確な判断・実行により確実に目的を達成できる理論」として欧米で認められるようになりました。
現在はシリコンバレーを中心にビジネスエリートが好んで使う思考法になっています。
その特徴はとにかくスピードが速く、なおかつ柔軟性があるということです。
現代において、速さというものは非常に重要な要素になっています。そもそもなぜ速く動かないといけないかというと、下記のような理由があるからです。
- 速く動かなければ選択肢がどんどん失われてしまう
- 速く動かなければ主導権が取れない
- 速く動いた方がチャンスが増える
OODAループが速い理由は「フレームワークでやることが明確」「直観(注:直感ではない)で行動するから不要なプロセスが端折れる」「気づけるからピンチやチャンスを見逃さない」「意味づけるから行動する理由を探す必要がない」「効果起点だから役に立たないことをしない」「主体的だから自分の最善策になる」だからです。
OODAループの概要
ODDAループは次の図のような、みる(書籍によっては観察と書かれている)という意味のObserve、わかる(情勢への適応、状況判断)のOrient、きめる(意思決定)のDecide、うごく(実行)のActの4つの行動、そしてそれを繰り返すLoopから成り立ちます。下図の矢印の通り、これらの工程はショートカット(省略)することも可能です(ショートカットのしかたは後程解説します)
「みる(Observe)」には目に入ってくるものを「見る」と意識して周りや相手の心を「観る」の2つの意味があります。
OODAループの「みる」は周囲の人の仕草や表情、言動、目の前で起きていること(場合によっては相手の話や声のトーン)を意識して観る(=観察する)ことに重きが置かれています。
人間は特に関心のないものだったり、何かに心をとらわれている時は目の前にある現象を知覚できません。しかし、それを知った上で意識して「みる」だけで、見るものは大きく変わってきます。
また、冷静に見ることも大切です。冷静でなかったり、自分にとって不都合な現実から目を背けたい願望があったり、思い込みが強いと現象を知覚できません。冷静に現実を見つめることで様々なことが見えてきます。
「わかる(Orient)」は「みる」で観察したものを自分なりに理解し、納得することです。OODAループでは最も重要なプロセスになります。私達は何かを見た(観た)とき、自分が持っている世界観に照らし合わせて理解することで納得できます。
世界観とは「○○とはこういうものだ」という認識、見方のことを言います。しかし、私達は一人ひとり異なる世界観持っているので、同じ現象でもどう理解するか異なります。そういう意味ではOODAループは「判断する対象」にだけ注目する客観的思考法ではなく、「対象とその背景に対する認識(世界観)」をセットで理解する主体的思考法になります。
また、「わかる」では見た(観た)ものを瞬時に「自分なりに理解して納得する」ことが第一であり、場合によっては正しく把握する必要はありません。理解が間違っていることはありますが、わからないから動かないよりは、よほどましです。
まずは動いてみて(試してみて)、間違っていたら素早く修正するという仕組みがOODAループにはあるので、間違っていても問題ないのです。
この仕組みがシリコンバレーで起業家たちOODAループを活用している理由です。GoogleもFacebookもOODAループのような、とりあえずの「わかる」を実行し、実践を通じて検証することで、現在を地位を確立しました。正しく「わかる」ことに固執し、リサーチと作りこみに時間をかけているうちに周回遅れになった多くの日本企業とは対照的です。
「きめる(Decide)」は「みる」「わかる」の次のプロセスで、どんな行動をするのか判断します。一般的に意思決定とは、複数の選択肢を並べて比較し、最善の答えを見つけ出す分析方法を言いますが、OODAループの「きめる」は可能な限り直観を元に判断します。
「わかる」と感じられた状況では、上記の通り、直観的に決めます(普段からこの決め方が出来るように世界観を広げる努力をします)。しかし「何が起きているのかわからない」という状況であれば、あらためて「みる」をします。
その上で時間があるなら選択肢を洗い出し、比較・分析をしてきめます。時間がなければ時間が許す限り自分の世界観を総動員して理解する努力をし、直観的にきめます。時間がないのに1つずつ選択肢を洗い出して比較・分析することも、時間がないからといって、行動を放棄することは避ける必要があるからです。
「うごく(Act)」は他の3つよりシンプルです。重要なことは最後までやり抜くことです。単に行動するのではなく、成果(失敗も含む)が出るように行動します。
「うごく」時は、すぐに実行するという意思を徹底することが最も重要です。確信が持てない状況でうごくのは誰にとっても不安ですし、思ったような成果が得られないかもしれません。しかし、失敗するにしても早いほうがいいです。
ODDAループの最後は「みなおす(Loop)」です。「うごく」を終えた後、その結果がどうだったか見直します。失敗に終わった場合、もう一度OODAループを回します。
ただ失敗した際は、終わったことをあれこれ考えるのではなく、最初からOODAループを回しなおすことを最優先にします。OODAループを何度も素早く回すことによって「こういうときは、こううごく」という手持ちパターンが増えていき、直観力に磨きがかかっていきます。そして最終的には成果が出てきます。
OODAループをショートカットで使う
OODAループの実践のカギは「ショートカット」にあります。どんな状況でも「みる→わかる→きめる→うごく→みなおす」のプロセスを踏むのではなく、そのうちいくつかを省略することが、スピードアップにつながります。
例えばですが、プレゼンの前にはスライドに間違えがないか、PCの調整は大丈夫かなど何度も確認します。しかし、慣れてくると、いつものことだから大丈夫と思い再チェックプロセスを省略します。
この見積もりが外れると困った状況になります。状況の認識(上のプレゼンの例だと、毎回の事だから慣れているという認識)と行動の結果の予測(チェックしなくても問題なくプレゼンが出来るという予測)を正しく見積もれないと、現実(スライド等にミスがあった。チェックが必要だった)とギャップが生じ、不幸な事態を引き起こします。
逆に言えば、「状況の認識」と「行動の結果の予測」を正しく見積もり、正しいショートカットのパターンを選択すれば、失敗せずに速く行動できるということです。必要なプロセスだけ踏んで、あとはスキップします。
どのようなときに、どんなショートカットを使うかというと下図のように整理すると、適用すべきパターンが見えてきます。
領域A(状況をよく知っていて、行動の結果を予測できる)は「わかる→うごく(みる、きめるを省略)」のパターンを使う 例:決まり切った作業など
領域B(未知の状況だが、行動の結果は予測できる)は「みる→わかる→みる」のように「みる」を2回行い、世界観を更新する 例:受験勉強、ダイエット
領域C(状況は理解しているが、行動の結果は予測できない)は「わかる→きめる→うごく」で仮説検証し、どんどん「わかるようにする」 例:リーンスタートアップ
領域D(未知で結果も予想できない)は通常のOODAループを回す。
領域Aは何度も同じ経験をするなどして、その状況よく知っていて、行動の結果も予測できるパターンです。例えば老舗テーラーや高級レストランでは、目利きの店員が訪れた客を値踏みします。彼らは数秒の間に客が身に着けているものや髪、表情などを見てみてジャッジし、行動します。
これは「みる」のようにじっくり観察するのではなく、長い間大勢と接した経験から、観察しなくてもわかって、うごけるようになったと考えられます。
領域Bでは未知の状況ではあるけど、結果が予測できるパターンです。例えば受験勉強やダイエットです。
このパターンではまずその事象を「みる(観察する)」ことが始まりです。ダイエットであれば体重や体脂肪を確認して、自分の体形がどんな状態かを知るというのが1つ目の「みる」です。
次に「わかる」をします。ダイエットの場合はいつまでにどんな姿になりたいのかの目標設定をし、同時にダイエット方法やジムの情報収集など目標達成のためにやるべきことを理解します。
そしてもう一度「みる」をします。これは「わかる」で理解したことが現実に合致しているかの観察です。こうすることで、自分の世界観は更新され、より広く、深いものになっていきます。こうすることで領域Bから領域Aにシフトできます。
領域Cのように理解はできても結果は予測できない場合は「わかる→きめる→うごく」です。
状況を整理して受け止めることが出来ても、結果が予測できない。だから、とりあえず「きめて」「うごく」のです。
シリコンバレーを中心に、起業や製品、サービス開発の手法として広く活用されているリーンスタートアップ(コストをかけずに最低限の試作品を短期間でつくり、顧客の反応を取得して、顧客がより満足できる製品・サービスを開発していく方法)は他社より抜きん出て敏感にマーケットを取る手法ですが、ここでも領域Cのパターンを使っています。
領域Dの未知で結果も予測できない場合はフルセットのOODAループを使用します。
領域Dは完全に想定外の状況の為、多くの情報を収集、分析して、全体の状況を把握し、行動に移します。
世界観をつくるフレームワーク
OODAループの中で、要になるのは「わかる」です。「わかる」をショートカットしないパターンはありません。
しかし、全ての現象が「わかる」わけではありません。そこで世界観が必要になります。
世界観はVSAM(ビジョン:Vision 戦略:Strategy 行動指針:Activities Directions メンタルモデル:Mental Model)で形作られます。
世界観とは世界を今、あるいはその先をどう観るかということで、わかるとは世界観をつくること、世界観は、目的であるビジョン、それを実現するための戦略、行動指針、それらを潜在的に観ているかを示唆するメンタルモデルによって構成されています。
さらに加速する為に必要なこと
速く、最適な行動を取る為には世界観を磨き続ける必要があります。
その方法の一つ目が様々な経験をして教養を身につけることです。
VSAMのうちのVSAを意識しつつ、それとは直接は関係ないこと、異分野にまで視野を広げ、教養を身につけると良いでしょう。
メンタルモデルを捉える為に、第三者にフィードバックをしてもらうことも大切です。自分のメンタルモデルを箇条書きにして信頼できる人に見せて意見をもらうと、意外な自分の一面に気がつけます。
常識を疑い、真実を意識することも大事です。物事が起きている現場に足を運び、自分の目で事実を確かめるのも良いことです。自分の目で確認することで、自身の思い込みを払拭できます。
また、OODAループを使い、世界観を最新のものに更新し続けることも大切です。
相手のOODAループに入る
私達の毎日は一人では完結しませんが、共に過ごす仕事仲間や家族、友人には自分のものとは違うそれぞれ世界観があります。そして彼らが自覚しているかはともかく、「みる→わかる→きめる→うごく」のOODAループに近い思考を持っています。
なので相手の自分に対する世界観(私をどう捉えているか)に働きかけて変えることが出来れば、自分に対する相手の理解や判断を変えられます。
これは営業先の関心を引いたり、面接で良い印象を与えようとすることも同じです。相手の言動、反応を観察して、それに基づいて目標を達成するためにOODAループを回していくといいでしょう。
個人的な感想
個人的な感想としてはスピードを求める仕事をしている方には非常に参考になる本だと感じました。
重要な部分(例えば世界観)については他の部分よりも多く説明されているので、どこが重要なのか、またその重要な部分をどうやって考えればいいのかわかりやすいかと思います。
また図が多いということも理解を深めるうえで非常に助かりました。
この本に書いてあることで特に重要なのは、OODAループの概要はもちろんですが、異分野にまで視野を広げ、教養を身につけ、世界観を広げるという点だと思います。
これはジャンルは違いますが同じビジネス本の「ロケット科学者の思考法」「「一緒に働きたい」と思われる 心くばりの魔法 〜ディズニーの元人材トレーナー50の教え〜」にも同様のことが書いてあります。
なので、この著者独自の意見やOODAループにだけ関係することではなく、多くの成功者がやっていることなのでと思います(これらの本について下記の記事をご参照ください)。
【書評】偉人達から成功する方法が学べる「ロケット科学者の思考法」の要約・感想、実体験
【書評】「一緒に働きたい」と思われる 心くばりの魔法 〜ディズニーの元人材トレーナー50の教え〜の内容・感想
次にお値段についてですが、お値段は1650円(1500円+税)とビジネス書としては普通の値段ですが、従来とは違うアプローチについて学べるという点を考えると、1650円というのは安い気もします。
欠点としては、一部を除いて、そこまで深くは書かれていないということだと思います。ページ数もあとがきを含めても162ページとビジネス本としてはかなり短めです(それでも1650円分の価値はあります)。
ただこの本のタイトルにもある通り、あくまでこの本は「入門書」なので仕方ないとは思いますが、もう少し深く書いて欲しかったというのが率直な感想でした。
PDCAとの使い分け方
この記事の冒頭で「PDCAは時代遅れ」と言う方もいると書きましたが、個人的な意見では、PDCAと使い分けることが重要であり、それが出来るならOODAループは強力な方法だと感じました。
OODAループを使う最大の利点はこの本にも書かれている通り、スピードが速いことです。そのため、スピードが重要になることについてはOODAループが非常に有用だと思います。また、ユーザー(顧客)の意見を聞き、柔軟に対応させたい場合にも有効だと思います。
例えば、私個人のお話しすると、私はAI関係の仕事をしています。AIの研究・開発についてはPDCAよりもOODAループのほうが向いているかと思います。
AIを使ったらおもしろいと思った製品、導入しようと思った場所、導入したらおもしろいと思える場所を考えたり、見つけたりしたら観察し、自分なりに状況を理解し、作ることを決め(というか許可をもらい)、作って実験、場合によっては導入します。
二週目のループでは実験結果やAIの動作、使った人を観察し、状況を理解し、改良することを決め、改良して再実験、再導入し、また観察し…という流れにします。この方が、より多くのデータが早く取れる上に、軌道修正・仕様の変更・機能の追加に柔軟に対応できることから、PDCAよりも向いています(IT関係のお仕事・勉強をされている方にはアジャイル開発の考え方と言った方がわかりやすいかなとも思います)。
別の例だと、この記事をOODAループを応用して書くこともできます。1週目は本を読み(観察し)、理解し、書くことを決め、書いていきます。ループの2週目以降は書いた記事を観察、あるいはTwitter等で記事に対する意見をもらい、問題点を自分なりに理解し、変更点を決め、修正をするというループです。こういったことにもOODAループは使えるかと思います。
あとは近年でOODAループを使っているなと思うのがソーシャルゲーム(ソシャゲ)です。ソシャゲは流行や状況に柔軟に対応しながらアップデートを繰り返しているなと個人的には思っています。
このように様々な業務、勉強にOODAループを当てはめることが出来ると感じています。
しかしながら、スピードを求めない場合や大規模な組織で動く場合、きっちり計画を作って計画通り進めたい場合はOODAループよりPDCAのほうが良いと思います。
仕事ではありませんが、例えば旅行がそうです。計画し(Plan)、旅行に行き(Do)、旅行を振り返り(Check)、次の旅行でどうすべきかを考え、改善する(Action)が理想かと思います。OODAループのスピードで旅行に行ったら、おそらく金欠になります。
また、OODAループの最も重要なプロセスである「わかる」は自分の世界観を元に理解をしようとします。しかしながら、大勢の人間が参加するプロジェクトで各々が自分の世界観を元にしてしまうと、組織の統制が取れなくなるのではないかと個人的には思います。
このような場合はしっかり計画をしたうえで、関係者が同じ方向を向いた状態でプロジェクトを進めることのできるPDCAを採用したほうが良いと思います。
まとめ
以上が「OODAループ思考[入門]」の要約・感想になります。
PDCAとは異なるスピードの速いアプローチ方法を学べる本となっており、普段の仕事や勉強でも使える思考です。
内容としても入門書であり、理解しやすいものとなっていますので、ご興味のある方はぜひ読んでいただけたらと思います。
今回は以上です。それではまた。
リラ吉